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【物件No.243】新旧のグラデーションを楽しむ、『The 日本家屋』?な風格

2026/06/30 つぶやき

伝統的な「和」の趣と、近代的の建築様式。これらが一つの空間に美しく、
時にユニークに共存している一軒の空き家をご紹介します。
日本の住宅建築の歴史において、1990年代後半は大きな転換期でした。
今回訪問した物件は、まさにその「転換期」だからこそ生まれた、
他にはない面白い”違和感”に満ちています。建築マニアならずともワクワクしてしまう、
この物件の魅力をじっくりと紐解いていきましょう。

 

【息をのむ職人技】一歩足を踏み入れると広がる、伝統的な「欄間」の世界

玄関を上がり、まず入ったのはすぐ右手に位置する和室。
ふと見上げると、そこには目を見張るほど見事な彫刻が施された「欄間(らんま)」が鎮座していました。
まるで一幅の水墨画を立体に起こしたかのような、
美しい山水や橋、松の木が繊細な透かし彫りで表現されています。
光が差し込むと、その緻密な陰影が部屋全体に厳かな空気をもたらします。
誰もが「おぉ、これぞ古き良き日本の伝統家屋だ」と確信する、
そんな圧倒的なプロローグからこの家のアドベンチャーは始まります。
しかし、この物件の本当の面白さは、ここから始まる『良い意味での裏切り』にあるのです。

 

【奥ゆかしき佇まい】これぞ「The 日本家屋」という風格


さらに和室の奥へと進むと、天井には丁寧に組まれた美しい竿縁(さおぶち)天井が広がり、
格式高い和の意匠が散りばめられていることに気づきます。
少し離れて部屋全体を見渡してみると、
そこには心地よい光が差し込む「縁側(えんがわ)」があり、
部屋と部屋、そして外部を仕切る美しい襖(ふすま)や障子が整然と並んでいます。


畳の香りが今にも漂ってきそうなその空間は、
どこを切り取っても「The 日本家屋」と呼ぶにふさわしい、
日本人が DNA レベルで落ち着きを感じる佇まいを見せてくれます。
ここまでは、誰もが築50年、60年、あるいはそれ以上の歴史を重ねた純和風建築だと思ったはずです。
そんな皆さんはもうこの物件の手中にハマってしまっています。

 

【廊下に出て広がる違和感】襖の向こうに潜む「The 現代建築」の風格


和室を後にし、廊下やお隣のスペースへと足を踏み入れた瞬間、その空気感は一変します。
「和室のあのおくゆかしい雰囲気はどこへ……?」
目の前に広がったのは、すっきりと洗練された現代的な住空間でした。
襖こそ日本家屋の風情を残していますが、それを取り囲む壁や柱の作りは完全に現代のもの。
柱をあえて見せる伝統的な「真壁(しんかべ)工法」ではなく、
柱を壁の中にすっぽりと隠してしまう「大壁(おおかべ)工法」が用いられているのです。

その大壁の上には、現代の住宅で一般的なクロス(壁紙)が綺麗に貼られ、
壁と床の境界にはすっきりと「巾木(はばき)」が添えられています。
そこにあるのは、私たちが今の暮らしで見慣れている「The 現代建築」の風格。

重厚な純和風の和室から、一瞬にして現代のスマートな空間へとワープしたかのような、
不思議な”違和感”がそこにはありました。

 
新旧工法のハイブリッド版:1997年という「転換期」が生んだ奇跡

なぜ、これほどまでにハッキリとした新旧の建築様式がひとつの家の中に混ざり合っているのでしょうか?
その秘密は、この物件の「築年数」に隠されていました。
見た目の重厚さから、てっきり築半世紀は超えているかと思いきや、
実際の築年数は「29年」。西暦に直すと1997年に建てられた物件です。
1990年代後半という時代は、日本の住宅建築にとって非常に重要な変革期でした。
相次ぐ震災などを経て建築基準法や法改正が重なり、
住宅の「耐震性」や「施工の効率化」が極めて重視され始めた時期です。
それまで主流だった、大工職人が現場で木材を組み上げていく伝統的な

「在来工法」

から、
あらかじめ工場で機械によって木材を精密にカットして現場で組み立てる

「プレカット工法(現代建築の主流)」

へと本格的に移行していく、
まさにその真っ只中でした。

この物件は、職人が腕を振るう「在来工法」の芸術性と、
近代的で頑丈な「プレカット工法」の合理性がちょうど真ん中で出会った、
いわば「新旧工法のハイブリッド版」のような存在なのです。

だからこそ、伝統的な欄間や縁側がありながら、
構造や壁は現代的という、奇跡的なバランスの違和感が成立しているのです。

 

【愛すべきディテール 1】
今や絶滅危惧種?アルミむき出しの手すりが放つ個性

この家の中に散りばめられた「面白い違和感」は、間取りや工法だけにとどまりません。
暮らしの細部、ディテールにもクスッと笑えて愛おしくなるようなポイントが残されています。


例えば、階段スペースへ行ってみましょう。
現代風にすっきりと仕上げられた白いクロスの壁に設置されているのは、
なんと『アルミむき出しの手すり』です。
はっきり言ってしまいましょう。

今どきの新築やリフォームで、こんなギラリとしたアルミむき出しの手すりを選ぶ人はまずいません(笑)。

現在なら、温かみのある木製の手すりや、スタイリッシュなアイアン調のものを選ぶのが普通です。
しかし、現代様式の白い壁に、
この“昭和ならでは“とも言えるアルミの手すりが堂々と備え付けられている様子は、
どこかレトロというか、妙に男心をくすぐる面白い違和感があります。

 

【愛すべきディテール 2】
現代的なシステムバスに鎮座する、まさかの「ひねる蛇口」

違和感の極めつけは、お風呂場(浴室)にありました。


扉を開けると、そこにあるのは一見、綺麗に手入れされた現代的なユニットバスです。
壁の手入れもしやすそうで、窓からは心地よい光が入り、
快適なバスタイムが約束されているかのように見えます。

しかし、湯船と洗い場のほうへ目をやると、再び「あれ?」がやってきます。
現代のボタン一つで自動でお湯が溜まるリモコンパネル……ではなく、そこにあるのは

「2つの蛇口を自らひねって、お湯と水を調整しながら沸かす(溜める)タイプ」

の給湯システム(笑)。
スマートなユニットバスの見た目をしておきながら、お湯の供給システムは超アナログ。
現代の最新住宅ではもはや「絶滅危惧種」とも言えるこの仕様ですが、
これこそが「1997年」という時代のリアルな空気感です。
この蛇口こそが「この時代の建築だからこそ出会える、愛すべき個性」として楽しめてしまうのが、
古民家・空き家の醍醐味ではないでしょうか。

 

まとめ:新旧のグラデーションを楽しむ、これからの暮らし
今回ご紹介した物件は、単に「古い家」でもなければ、「どこにでもある普通の家」でもありません。
日本の住宅が伝統から現代へと生まれ変わる、
その激動の瞬間をギュッと閉じ込めたタイムカプセルのような住まいです。
格式高い和室で欄間を眺めながら休み、
一歩廊下に出れば現代的な暮らしやすさにホッとする。

そして階段のアルミ手すりやお風呂の蛇口に触れるたび、この家が歩んできた「変革期」という歴史に愛着が湧く。
この良い意味での「違和感」を面白がり、新旧のグラデーションを自分らしくカスタマイズしながら暮らしてみたい方。
そんな遊び心のある方に、ぜひ引き継いでいただきたい至高の1軒でした。